本学系修士課程は、人々が言語、民族、文化、歴史、制度などの既成の境界線を越えて一緒に何事かをなす多元文化交流活動を研究対象とすると同時に、そうした交流を方向づけ、これに主体的に参与し創り出していく人材の育成を目標としています。
越境的な交流における人々の間の〈差異〉はきわめて多元的ですが、特定の差異が支配的な言説の中で〈特権化〉され制度に反映されます。性差、民族差、国籍などはその例であり、そのように制度化された差異がここで言う「既成の境界線」です。既成の境界線は、しかし、かならずしも固定的なものではなく、日々、交渉され、変更される可能性を持ち、実際に変更されている現状があります。
そのような交渉や変更は、どのような場で、どのようにして起こっているのでしょうか。“交流の現場”とは、どのような場なのでしょうか。それは私たちの日常生活です。私たちの日常生活は既成の境界線の上に成り立っていると同時に、問題が生じたときには、境界線を交渉し直し、引き直していきます。そうした日常的な行為を意識化し、既成の境界線とそれらを支える言説を分析的、批判的に学び直すことを通じて、境界線の交渉、引き直しを主体的に引き受けることがグローバル化する世界において必要になってきます。
このような学び直し(unlearning)は教室の中で本を読んだり議論したりするだけでは起こりにくいと思われます。本学系修士課程は積極的に台湾外からの学生も募集して教室内の多元化も図っていますが、それだけでは広い社会内の交流の諸問題に触れる機会は限られています。そこで積極的に交流の現場に足を運んで、大学外で活動している交流の実務家と一緒に活動することを学習の重要なポイントと考えます。本学系修士課程では、このような活動を「プロジェクト」と呼び、きわめて重要視します。