本修士課程の教育目標は、台日多元文化のコミュニケーションと交流の能力をもつ人材を育成することにあります。多言語・多文化における言語や文化の接触面について観察と思考能力を深化させるのです。また、台湾と日本を中心に、東アジアの各地域にまたがるコミュニケーション(trans-regional interaction)の問題を、理論的・分析的に探求します。本課程には「言語と教育領域」「社会と表象領域」「コミュニケーションと文化領域」という三大領域があり、そこには「日本語研究」「台日言語接触」「台日表象文化」「台日社会交流」などのテーマが含まれます。こうした理論の探求は実践性を帯びており、本課程では二年次から、双方向的な社会実践のプロジェクトに参加することになります。(目下のプロジェクト実施状況は、本学系ホームページを参照してください)これらのプロジェクトはみな、学生が主体となって、社会とつながりを持つテーマについて企画と活動を進めるものです。実際の活動を通じ、多言語・多文化のコミュニケーションと交流を実地に経験してゆきます。
- 総論
本大学院はなぜ多元文化交流を研究対象とし、プロジェクトを重視するのでしょうか。これについて考え、討論するだけでなく、大学院のカリキュラムにおける三大領域の内容と意義を理解しつつ、自分がどのような角度から研究に取り組んでゆきたいかを考えます。 - 実践論
多元文化総論で学んだ理論的考察にもとづき、プロジェクトについて深く理解します。同時に、交流活動で実際に発生するさまざまな人間関係や、活動の実施におけるさまざまな問題を討論します。
学術論文執筆のための基本概念と方法を学びます。講義や発表、討論をとおしテーマの探し方や資料の調べ方、概念整理の仕方、アウトラインの作り方などを学んで修士論文に備えます。
言語と教育A 近代言語形成史
歴史的な視点から近代言語形成の軌跡を考察し、社会・政治・経済・文化の文脈について討論するとともに、自身の言語観についても批判的に再検証します。
言語と教育B 日本語研究
現代の日本語研究の状況を理解します。まず教師のほうから、日本語研究の文献検索サイトや、データベース、コーパス等の研究材料の紹介をおこないます。また、履修学生は自身の研究テーマや興味関心に従って、共同講読する研究文献を選択し、その内容について順番で報告します。
言語と教育C 言語と教育
様々な角度から言語と人間の関係を考え、また現在の第二言語教育や外国語教育の目的と方法がどうあるべきかについて考察します。また、言語教育・言語学習・研究方法の関連論文を講読し、言語教育の研究課題を理解して言語教育・言語学習のあるべき姿を考えなおします。
言語と教育D 日本語と言語使用
日本語コミュニケーションの実例をとおし、言語意識・言語行動・言語政策・言語教育等の観点から言語使用の問題を考察します。そして言語コミュニケーション研究で用いられる社会言語学・心理学領域の方法を紹介し、言語使用をテーマとするフィールドワークを企画・実行します。
コミュニケーションと文化A 異文化コミュニケーション
文化的差異、自己と他者、アイデンティティー、言語と非言語、偏見と差別、集団などコミュニケーションの基本理論概念に対する理解を深めます。そして日本での多言語社会のケース研究をとおし、グローバル社会での移動の現状と問題について理解を深めます。多言語社会のケース分析をとおし、グローバル化がコミュニケーションにもたらす影響を研究します。
コミュニケーションと文化B 言語と接触
人々はしばしば言語・文字・音声などの記号を利用して接触と交流を行います。さまざまな形態の接触交流の過程から、多くの異なる言語現象に気づくことができます。台湾と日本を出発点として、同時に社会言語学の観点(言語行動、言語接触・言語変化などの研究テーマ)から社会の中の各種の言語現象を分析し探求します。
コミュニケーションと文化C 翻訳文化論
翻訳技巧の訓練ではなく、「翻訳」という行為がもたらす巨大な影響を探求することで、それが各言語グループの現代文化にどのように影響し、またそれをどう構築するかを考察します。
コミュニケーションと文化D 社会とコミュニケーション
コミュニケーションとは一種の動態であり、社会の相互活動の履歴でもあります。発話者は、言語或いは非言語行為をとおし、メッセージを他人や集団に伝えます。会話分析を活用することで、人と人の対話の有様を探求し、また社会の相互活動の中で、言語行為・非言語行為がどのような特徴や影響を顕し、さらにそこにはどのような隠されたメッセージがあるかについて研究します。
社会と表象A 近代台日社会形成史
近代天皇制国家と近代社会形成の特殊性について考察しつつ、また日本近代社会形成の観察をとおし、日本による台湾植民地期のさまざまな政策と台湾近代社会形成の関連性について理解します。
社会と表象B 表象文化交流論
表象文化交流の過程で次第に形成されてきたジェンダーやナショナリズム、政治・文化・社会問題にかかわるもろもろの概念と影響について概括的に理解します。学術書講読をとおして作品分析の助けとし、視野を広げてつねに変動する複雑で多元的、異質な文化構造と向き合います。
社会と表象C 日本語文学論
日本語文学作品と関連資料・研究論文の講読を目標とします。対象は日本籍作家とは限らず、日本語を母語とする外国籍作家や、台湾・朝鮮等の出身作家を含みます。近代以降の小説・散文・詩・評論のほかに、映画や漫画・アニメ・雑誌・新聞・前近代の古文なども分析します。
社会と表象D 近現代メディア文化
近現代東アジアのメディア文化をテーマとし、文化研究・文芸評論・政治理論など多くの角度から各種メディア作品を分析します。それらはいかに発展し、どのような言説を生み、またどのように受容されるのでしょうか。どのような政治性をもつのでしょうか。これらの問題を共同で討論します。